忘れないでいてくれたら
2012年某日
晩秋が過ぎ、冬が訪れようとしている頃
寒さに震えながら起床し、日が昇る前に通学路に自転車を走らせる
教室にはもちろん校舎にも生徒の影は誰一人として無く、ただ一人だけの空間が広がっていた
何も手につかずとも、とにかく進むために参考書とノートを机に広げる毎朝。
1時間くらい経った頃だろうか
まだ始業まで30分以上、誰も来ないだろうと思っていた教室に2人目の生徒が教室に来る
きっと自分が来るまでは、1番目だったのだろう。
今思い返せば、静かな空間を横取りしてしまったのかもしれない
だがそれが、彼女との出逢いであり、微かな幸せの始まりだった
ずっと一人だと思い込み、進み続けていた自分にとって
気兼ねなく会話ができる相手がいて嬉しかったのだろう
それが異性であったことに、尚の事喜んだのだろう
時間が経てば、生徒は次々登校し、二人きりの時間は終わる。
僅かな時間を自分の糧にしたくて
その一瞬を期待するようになった
目的地は全く違えど、彼女もまた、進み続けている者だった
同じ目的を共有できていることだけでも、寂しさが紛れた。
いつしか、同じ時間を彼女ともっと共有したいと思うようになった
前に進むことが疎かになるくらいには、頭が一杯になった
だがそれが元より叶わないことは知っていた
自分が行き着くべき先は、彼女の行き着くべき先とは地理的に遠く離れている。
だからと言って、自分の行き着く先を変えることはできない。
そう知りながらも、最後には彼女に想いを伝えた。
もしも行き着く場所が近かったなら、今とは違う未来があったのだろうか
それとも、何も変わらなかったのだろうか。
もしもの未来などわからないし、知らなくていい。知ったとしても、それがどういう結果だったとしても後悔しか残らないから。
2022年 猛暑日の続く夏の日
ふと見返した一冊の冊子。
せめて何かを形に残したくて、寄せ書きを交換してもらった。
そこには、どこかで会えたら、とあった
そんな確率は、奇跡でも起きないと当てられないのだろう。
突然どこかで再会できるなんて、創作の世界の話だ
だけど、
もし彼女も同じように
思い出してくれたなら
覚えていてくれていたなら
もう一度だけ、チャンスをくれませんか